株式会社テレビ東京コミュニケーションズ 様
テレビの視聴時間が年々減ってきている中、見逃し配信サービスなどインターネット媒体での番組視聴は好調です。見逃し配信サービス「ネットもテレ東」を運営する株式会社テレビ東京コミュニケーションズ(以下、TXCOM)は、サービスから取得した視聴者データをプライベートDMPに集約して蓄積し、データの活用を図っています。
今回、同社メディア事業開発本部の今田智仁さまと芹澤舞耶さまに、「データチームが売上貢献の為にやっていること。テレビ東京の事例を公開」と題してデータ活用の取り組みをお話しいただきました。
<話し手>
今田 智仁さま
株式会社テレビ東京コミュニケーションズ
メディア事業開発本部
データ・UXデザイン部シニア・マネージャー
芹澤 舞耶さま
株式会社テレビ東京コミュニケーションズ
メディア事業開発本部
データ・UXデザイン部
<聞き手>
株式会社Legoliss
データマーケティング事業部 データアナリスト
音嶋 健斗
テレビ東京グループのデジタル担当、TXCOM
TXCOMは認定放送持株会社「テレビ東京ホールディングス」の100%子会社で、テレビ東京グループ全体のデジタル戦略を担っています。
今回は、TXCOMが運営するテレビ番組の見逃し配信サービス「ネットもテレ東」でのデータ活用例をメインにご紹介します。
「ネットもテレ東」は、PC・スマホ・タブレットやFireTVなどを経由したテレビデバイスから視聴できる広告付きの動画配信サービスです。2015年にサービスを開始し、月に140以上の番組を配信。自社サービスだけではなく、TVer、GYAO、ニコニコ動画、YouTube等の他プラットフォームでも動画を配信しています。
視聴者の可処分時間はデジタルへシフトしている
消費者がテレビに費やす週平均時間は年々減少傾向です。一方、この10年でスマートデバイス(スマートフォン+タブレット)に費やす時間が著しく伸びています。スマートデバイスとPCを合わせたデジタル媒体との接触時間は、テレビを超えました。
ただテレビ局もこの状況に対して手をこまねいているわけではないです。良質なコンテンツをYouTubeなどのプラットフォームへ提供するとともに、民放5局で立ち上げたTVerや各局独自の動画配信プラットフォームで配信を始めています。
テレビ東京では、誰でも無料で視聴できる見逃し配信サービスとして「ネットもテレ東」や、月額課金サービスの「テレ東BIZ」を展開中です。
今までテレビであれば取得できるデータは限定されていたのが実情です。しかし「ネットもテレ東」をはじめとする動画配信サービスからであれば、様々なデータを取得できます。そこで今田さまたちは、インターネット媒体からデータを取得・集約してプライベートDMP(=CDP)を構築し、視聴者のデータ分析に従事しています。これが今回紹介するTXCOMとLegolissによる取り組みです。
データ活用プロジェクトの5つの取り組み
TXCOMとLegolissによる、データ活用の取り組みの概要を以下に示します。
1.プライベートDMP構築
前述の通り「ネットもテレ東」ではTVerなどの他社プラットフォームにも動画を配信しています。ばらばらに取得されたデータを1カ所に集約し、データ分析やマーケティング施策に利用できる状態にするためにプライベートDMP(=CDP)を構築しました。
2.マーケティングダッシュボード構築
集約したデータは、そのままでは人が見るのに適しません。CDPに集約されたデータを可視化し、社内の人が把握・共有しやすいよう一元表示できるダッシュボードを構築しました。ダッシュボードにはTableauやGoogle データポータルを活用しました。
3.サービス間のユーザー行動を可視化
「ネットもテレ東」以外の自社サービスも含めてユーザーがどのような行動をしているかもデータを取り、可視化しました。
4.外部データを接続
自社で取得したデータと外部メディアから取得したデータを突合し、分析できるようにしました。
5.サービスのグロース活用
CDP内に蓄積したデータを、サービスを成長させるための様々な施策に活用します。これがCDPを構築する一番の目的です。
取り組みは2017年11月に始まり、Legolissはデータ取得の段階から3年以上伴走しています。上図でいうと一番左からです。
両社の役割分担は基本的に、Treasure Data CDPやAmazon Redshift、Tableauなどのツールでデータを抽出・加工して可視化するまでをLegolissがメインで担当し、事業開発や代理店のディレクション、他部署連携などをTXCOMが担当する形になっています。
3年以上の期間を伴走し、今では音嶋氏もテレビ業界の知識やデータのクセに詳しくなってきました。
「依頼した通りのSQLを納品してくれるだけではなく我々が後で分析しやすい形で送ってくれたり、BI ツールで可視化して読みやすくしてくれたり、外注作業というよりはまさにパートナーという形で参画していただいているのは非常に助かります」(今田さま)
売上貢献につながるデータ活用事例
ここからは、 CDPに蓄積したデータの具体的な活用事例を3つご紹介します。
事例1:番組プロファイルシートを作成し営業に活用
CDPには様々なデータが蓄積されています。自社サービスから取得したデータと外部サービスから取得したデータは一意のIDや広告識別子などの識別用データによって突合し、属性などを付与しています。
TXCOMではこれらのデータを元に、配信番組の視聴者がどのような属性を持っているかをプロファイルシートにまとめ、広告営業に活用しています。
たとえばビジネスマンをターゲットにしている広告主に提案する場合、これまでならば経済関連の番組への広告出稿を提案していたかと思います。しかし視聴者のデータをシートにまとめることで、実はバラエティ番組にもビジネスマンの視聴者が多いとわかる場合もあります。
このように視聴者のデータを営業に活用し、これまでとは違った切り口での広告提案が可能になリました。
事例2:インタラクティブ広告によるブランドリフトサーベイ
「ネットもテレ東」内のインストリームで配信される広告は動画広告ということもあり、ダイレクトレスポンス型の刈り取り広告ではなくブランディング広告がメインです。
そのため広告主は、「どのような人に広告が見られたのか」「その結果、どの程度態度変容が起こったのか」を気にする傾向にある。どのような人が見ているかのデータは、前項のプロファイルシートで提供可能です。
態度変容の調査には大きく分けて2つの方法を採用しています。ひとつは調査会社に依頼し、広告接触者と非接触者にアンケートを取る方法だ。調査会社には広告の接触者と同じ条件での非接触者のデータ(コントロール)を抽出するなどの調整を行っています。
もうひとつは、インストリームの動画広告内にアンケートを表示する方法です。アンケートの回答結果はリアルタイムにCDPに落とし込まれます。この方法ならば、態度変容のデータも広告配信と同時に取得できます。
事例3:LTV算出による広告費のアロケーション
これまでできなかったことがデータ活用により可能になった一例が、LTVの算出とそれによる広告費の最適化です。
TXCOMでは見逃し配信サービスの利用者を増やすため、視聴用アプリのインストールを促す広告を実施しています。どのメディアに出稿した広告から流入したかという流入経路データとその後の視聴データを掛け合わせて分析し、インストール後の動画や広告の視聴回数等をLTVとして算出しました。下図はそのイメージです。
広告からのインストール数しか見ることができなければ、単純にCPI(Cost per Install)が低いメディアBに広告費を多く投下する判断します。しかしインストール後のLTVまで見ることで、CPIは高いがLTVも高く元が取れるメディアAにも広告費を投下すべきだと見抜くことができます。
これまで分断されていたデータをCDPに集約することで、複数のデータを掛け合わせて顧客を分析できるようになりました。その結果、正しい判断をすることが可能になった良い例です。
データ基盤となるTreasure Data CDPの使いやすさ
今回紹介しているCDPの構築には、Treasure Data CDPを使用しています。今田さまはTreasure Data CDPの使いやすい点として次の項目を挙げました。
24時間サポート
Treasure Data CDPは24時間体制でチャットサポート(英語)を行っています。深夜の作業中に分からないことが出てきた場合には非常に頼りになります。今田さまも実際に「データ分析ではまってしまって深夜になってしまった」経験があるといいますがその際もサポートを活用して解決しました。
スプレッドシート連携
今田さまはデータ分析の際にBIツールも利用するが、最後はエクセルやスプレッドシートに出力することも多く、CDPとスプレッドシートの連携しやすさは重要なポイントだといいます。
「エクセルでのデータ分析に慣れたマーケターには非常に使いやすい」「エンジニアにとってはもちろん、そこまでエンジニアリングに詳しくないマーケターにとっても非常に使いやすいと思います」(TXCOM 今田さま)との見解です。データを日ごとにスプレッドシートに出力し、シート上にグラフを作って分析するなどの活用をしています。
その他にタグの汎用性やワークフローで簡単に毎日処理を実行できる点などが挙げられました。
音嶋は「インフラ部分の保守運用はトレジャーデータが面倒をみてくれるので、分析やその後の事業開発に集中できるのが魅力」との所感が挙げました。
取り組みを行っているTXCOMとLegoliss両社だけではなく、CDPサービスを提供するトレジャーデータも含めた3社がSlackで連携しており、コミュニケーションはスムーズです。大きいタスクはBacklogを使って管理し、やり取りのログは基本的にデジタル上に残すようにしています。
「コロナ禍でリモートワークが続き、本日音嶋さんにお会いするのは初めてなんですけれども、これまでの1年ほどのやり取りで特に問題になっていることはありません」(TXCOM 芹澤さま)
これらの取り組みにより、最も大きく変わったのは社内の意識だ、と今田さまは語ります。同社の上層部も含め、「データを活用する」という意志が社内全体で統一され始めてきているといいます。
今後は「データの質の向上」や「機械学習」にも取り組む
両社の取り組みは現在も続いている。今後も様々な施策でデータ活用の幅を広げていく予定です。その中から2つをご紹介します。
データの質の向上
以前データの分析中に、深夜の男性ウケするようなバラエティ番組で30代女性の視聴が一番多いという結果が出たことがありました。意外な結果なので分析を進めてみると、実は使用した外部データに30代女性が多く、突合したデータ自体に偏りがあると分かりました。ウェイトバックでデータを補正したところ、20代男性が多いという結果になりました。
このエピソードから分かるのは、データ自体に間違いはなくてもデータの特性や偏りまで考慮しないとミスリードした結果になってしまうということ。データの質を上げると共に、データの読み方の質、つまり分析担当者のスキルも上げなければなりません。
機械学習を用いた属性予測や在庫予測
IDFA(iOS端末の広告識別子)の仕様変更やGoogleによるサードパーティcookieの規制により、データの突合に使用するIDが取得しにくくなってきています。今後は社内のデータと外部データを突合できない状況が発生する可能性があります。
TXCOMではそれに備えて、正解データを基にしてデータを拡張する機械学習にも取り組んでいます。これまでの視聴者データから学習し、番組視聴履歴から視聴者の属性を推定するモデルを構築します。
※標の数値はダミーとなります。
この他に、機械学習による広告在庫の予測モデルの作成にも取り組んでいます。imp保証型の広告販売ではオーバーimpにならないよう抑えて販売せざるを得ないが、広告在庫の予測ができれば実際の在庫に近しい形で販売が可能になります。
これらを実用化するには、機械学習モデルの精度向上が不可欠です。「色々なモデルを試す中で、最適な成果率の高いモデルを作成することができそう」(TXCOM 芹澤さま)。
最後に:デジタルメディアの運営にはデータ活用が必須
テレビ局だけではなく、いわゆるトラディショナルメディアと言われる従来型のメディア企業ではデジタル化が遅れていました。しかし自社が抱えている課題を直視し、変わろうとする企業も出てきています。TXCOMもそのうちの一社です。
「テレビ業界はデジタル業界と比較して、斜陽産業という印象を持たれがちだが、デジタルやマーケティング、データ分析の観点で手をつけられていないことが多いだけで、保有するコンテンツの豊富さ、制作能力の高さなど強力なアセットを持っています。見せ方や改善次第では圧倒的存在感を示すことができるのではないか。メディア企業として今後ますますデータの活用は必須となっていきます」(TXCOM 今田さま)
<事例紹介>
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